北海道のさかな
白いアカシアの花が咲く札幌の6月といえば北海道神宮例祭、通称「札幌まつり」の季節です。ピーヒャラ、ドンドンドン…。初夏の風に乗って聞こえてくる笛や太鼓のリズムに祭り気分がいっそう盛り上がります。
6月14日の宵宮祭に始まる札幌まつりの期間中、北海道神宮の境内や中島公園には綿菓子などの露店が並び、子供たちは大はしゃぎ。15日の例祭を経て最終日の16日にはおはやしを先頭に御祭神をお乗せした鳳輦4基と、豪華絢爛な山車9基をお供する千人以上の行列が、札幌の街に華麗なる時代絵巻を繰り広げます。
こうした祭りの思い出はそのままふるさとの思い出となり、次の世代に語り継がれてきました。

初夏の風物詩といわれる札幌まつりの時季、海からも旬の声が聞こえてきます。「時しらず」とも呼ばれる時鮭です。本来は放流から4年の歳月をかけて戻ってくる鮭の若い個体が秋を待たずに日本近海に現れ、季節外れに獲れることからこう呼ばれるようになりました。
「この時鮭の旬と札幌まつりの時季が重なることから、私が子供の時分には祭りの日の夕食に赤飯や煮しめと一緒に〈時鮭の焼きびたし〉が出たものです」。
そう、思い出話をしてくれたのは「魚屋一筋40年」、曲〆髙橋水産(株)の本田敬一さん(63)です。魚食文化の素晴らしさを伝える熱心な普及活動が認められ、平成24年には水産庁の「お魚かたりべ」に任命されました。
「通常、秋に獲れる天然の鮭はふるさとの川で産卵することが最大の目的ですから、帰ってくるころには体中の栄養が全部卵に行き渡っています。ところが時鮭の場合、まだ精巣や卵巣が成熟しきっていない分、栄養をたっぷりと身にまとった、いわゆる食べごろの状態。脂乗りもよく、こたえられないおいしさです」。
時鮭ならではのおいしさを堪能するため、当時台所に立っていたお母さんたちも調理法をひと工夫。さっと素焼きした時鮭を好みの味に調えたタレに浸せば、時鮭の焼きびたしの出来上がりです。子供たちはそれをほぐして炊きたてごはんにのせてぱくぱく、お父さんは酒のさかなにしながら少しずつ…。札幌まつりの夜だから食べられるごちそうに家族全員がこぞって箸を伸ばした昭和の食卓が浮かんできます。
「焼きびたしの良さは冷めてもおいしいところ。家族みんなでおしゃべりしながらゆっくり箸を進めても最後までおいしく食べられた記憶が残っています」。
札幌市内の小学校や大学、消費者協会と連携して年に10回以上料理教室を開き、解説役としても多忙な日々を送る本田さん。「祭りのごちそうに時鮭を食べたという思い出ごと皆さんにお伝えして、魚が食卓に上がる回数を少しでも増やしていきたいです。最近は料理好きな男性も増えてきました。そういえば子供のときに時鮭の焼きびたしを食べた、という方はぜひ、ご自分でもお試しになってはいかがでしょうか」。
祭りの活気に誘われて今夜の食卓に今しか味わえない旬の味、時鮭を一品。そんな光景もまた、ふるさとの思い出の一ページになりそうです。

札幌まつりの写真提供:北海道神宮











