

オホーツク海から流氷が消え去る“海明け”を待ちわびて、操業をスタートする宗谷の毛ガニかご漁。3月下旬、初水揚げに沸く早春の枝幸漁港を訪ねてみた。
オホーツク海沿岸北部に位置する枝幸町は、毛ガニの漁獲量日本一を誇る港町。
午前4時過ぎ――。まだ濃い闇に包まれた枝幸漁港から煌々とライトを灯した何隻もの毛ガニ漁船が、沖へ向かってゆく。流氷に閉ざされた冬の間、漁船を操業できないオホーツクのカニ漁師にとって、3月下旬の初水揚げは待望の日。沖を目指す漁師たちの顔には、期待と不安とが入り混じっている。
早春とはいえ、残雪の漁港を吹き抜ける潮風は、まだまだ冷たい。
すっかり日が昇り切った昼下がり、1隻、また1隻と、漁船が帰港すると、それまで静寂を守っていた漁港の雰囲気は一変。瞬く間に活気づく。漁船が停泊すると同時にトラックが横付けされ、漁師や作業員が一体となって、ぎっしりと毛ガニが詰まった大きなプラスチック箱をすばやく荷台へ積み込む。「せーの!」「はいよ!」と威勢のよいかけ声を響かせて行われるスピーディーな運搬リレーは、ぴたりと息の合った、まさに職人技だ。
堂々たる体躯を誇る大ぶりの毛ガニは、箱から脱出するほど元気いっぱい。なかでも、流氷が去った直後のこの時期に水揚げされる“海明けの毛ガニ”は、流氷の下で動植物プランクトンをしっかり蓄えるため、引き締まった身と濃厚な味噌がぎっしり詰まっている。海明けのオホーツクでしか出合えない、極上の毛ガニなのだ。