

日本最東端に位置する根室半島では、4月下旬から7月下旬にかけて“春を告げるサケ”と呼ばれるトキシラズの定置網漁が最盛期を迎える。5月下旬、水揚げに活気づく根室落石漁港を訪ねた。
根室半島の付け根、太平洋に突き出す落石岬に囲まれた落石漁港は、サンマ、毛ガニや花咲ガニ、ミズダコなど1年を通してさまざまな魚介が水揚げされる道東屈指の良港だ。
落石漁港の主軸となるサケ漁は、4月下旬~7月中旬に流し網、4月下旬~8月上旬と9月上旬~11月中旬には定置網で行われ、“根室ブランド”のサケとして全国各地へ出荷される。なかでも、4月下旬から7月下旬にかけて日本200海里内で獲れるトキシラズは、産卵期を迎える前の若いシロザケなので、身全体に栄養をたっぷりと蓄え、脂ののりも十分だ。
5月下旬とはいえ、まだまだ冷たい潮風が吹く落石漁港に到着したのは午前4時半。
漁港には、エンジンをかけた数隻の漁船がすでにスタンバイしていた。身支度を整えている漁師さんに出航時間を尋ねてみたところ、「一緒に乗っていくかい?」と、思いがけずうれしいお誘いが――。サプライズな展開に少々興奮しつつ、さっそく恵洋丸という名の漁船に同乗させていただいた。
船長が沖へ向かって舵を切ると、19トンの小型船はみるみるうちに漁港を離れ、20分ほどで約4マイル先にある定置網の仕掛けポイントへやってきた。
漁船が泊まるや否や、漁師のみなさんが激しい横揺れをものともせずに、テキパキと自分のポジションにつき、力強く網を手繰り寄せていく。クレーンで網を引き揚げると、美しい銀色をまとったトキシラズが、朝日を浴びてキラキラと輝いた。
ピチピチッ!と元気よく跳ねるトキシラズを誇らしげに眺めながら、「トキは脂ののりがいいからね。刺身もウマイし、塩焼きも最高だよ!」と船長さん。その言葉に誇らしげに頷く、漁師さんたちの日に焼けた笑顔が、何よりもトキシラズのおいしさを物語っている。