

雪に包まれた厚岸湖を訪れたのは12月下旬。凛と晴れ渡った冬空の下、湖面は穏やかだが、真冬の寒風が頬に痛い。厚岸湖は太平洋に面して入り組む厚岸湾とつながった汽水湖。山や湿原の養分をたっぷり含んだ別寒辺牛川(べかんべうしがわ)の淡水と、太平洋の海水が混ざり合った適度な塩分の海水によって、カキの餌である植物性プランクトンが豊富に育つことが、厚岸産カキのおいしさの秘密だ。また、一般にカキの旬は、秋冬とされるが、厚岸は、夏でも寒流の影響で海水温が低い海域があり、気温が上昇してもこの海域を利用すればカキの成熟スピードを出荷時期に合わせてコントロールすることが可能。一年中安定して出荷できるうえ、低水温でじっくり時間をかけて成長するため、栄養とうま味をたっぷり蓄えた最高級の“海のミルク”が育つというわけだ。
生産量は殻付きカキで年間450万個前後と北海道トップ。現在は120ほどのカキ漁業者が、養殖から水揚げ、殺菌、選別、出荷までを一貫して行う。カキ小屋が建ち並ぶ湖畔を歩いていると、ちょうど養殖カゴの水揚げに向かうという漁師さんと出合い、船に同乗させてもらった。寒風に耐えつつ、船に揺られること数分――。養殖場に着くと、ワイヤーを水中のかごに引っ掛けて、クレーンでゆっくりと引き揚げた。ザブッと現れたカキのかごには、藻がびっしり! 驚いていると、漁師さんが「すごいでしょ? 厚岸湖には栄養がたっぷりあるっていう証しだよ」と誇らしそうに微笑んだ。毎年春に宮城県産の天然種苗をロープや針金に固定し、厚岸湖で1~2年養成した後、原盤から外してカゴ養殖に切り替え、塩分の濃い厚岸湾へ。大きく育てた後、再び植物性プランクトンの多い湖で熟成させ、何度も引っ越しを経て、ようやく出荷の時期を迎えるという。厚岸産カキのおいしさは、自然の恵みと生産者のたゆまぬ努力の相乗効果なのかもしれない。
直売所に立ち寄り、2年物の立派なカキをみやげに買った。殻を開け、ぷっくり大きな身をそのまま頬張ると、海の香りと共にコクのある甘さが口いっぱいに広がる。まさに“海の恵み”をいただいていると実感。漁師さんの「うまいだろ?」という声が聞こえてきそうだ。