

様似町市街からえりも方面へ約6㎞。太平洋沿いに車を走らせると、カゴを手にした数十名の人々がちりぢりに作業している海岸線が見えてきた。冬島地区を訪れたのは、久々に寒さが和らいだ3月初旬――。晴れわたる空の下、白い雪も姿を消してはいるが、波打ち際に降り立つと、やはり冬の潮風はまだまだ厳しい。
冬島地区では、1月から寒ふのり漁が始まり、6月上旬まで月に2回、干潮時の凪の日にのみ行われる。天然のふのり資源を守るため、採取時間は1回の漁で1時間半までと定められているそうだ。取材時の漁は午後1時から。防寒具に身を包んだ老若男女が波打ち際に続々と集まり、それぞれのポイントに陣取って、ときには冷たい波しぶきを受けながら、転石にびっしりと着生したふのりを黙々と手摘みしていく。制限時間との勝負だが、雑海藻などが混じらないよう、作業は手早くも丁寧に進められる。道具は一切なし。ゴム手袋をはめて、ひたすら手作業で採取するため、厳寒時には、手がかじかみ、漁を終えるころには感覚がなくなってしまうこともあるという……。海水で濡れた磯場は滑りやすく、素人は数メートル進むにも難儀するが、漁師のみなさんはカゴを小脇に抱えたままスイスイと軽やかに動き回り、ポイントからポイントへ。30分ほど経つころには、空っぽだったカゴの中は、黒々とした寒ふのりがこんもりと積まれていた。
その日採取したふのりは、近くにあるえりも漁業協同組合冬島支所の市場へ運び込み、計量した後、小分けに袋詰めされ、生のまま出荷されるほか、真水で洗い、天日干ししたものは干ふのりとして流通する。「冬島のふのりは、天然の転石に生えるから、コリコリッと食感がいい。磯の香りも強いからね。味噌汁に入れたら最高だよ!」と、漁師さん。
取材の翌朝、直売店で手に入れたふのりをたっぷり使って、さっそく朝食の味噌汁を作ってみた。ひと口すすると、冬島の波打ち際で吸い込んだ磯の香りが、口いっぱいによみがえり、その鮮烈な香りに眠気もすっきり吹き飛んだ。滋味豊かな味わいは、寒風に負けず、黙々と手摘みする漁師さんの苦労の賜物にほかならない。