小平・鬼鹿漁港での真ガレイの漁期は、例年3月中旬から6月中旬まで。早春の産卵期には沿岸付近の水深の浅い漁場で行われ、産卵後は魚が沖合へ移動するため、漁場も移行していく。シーズン終盤のこの時期は、漁港から15㎞ほど沖合がポイントだ。水深30~60mほどの海底に刺し網を設置しておき、深い闇に包まれた午前1時ごろに漁港を発ち、日が昇る前には刺し網の引き揚げ作業がスタートする。
引き揚げ作業を終えて帰港するのは、空がようやく青みを帯びる午前3時過ぎ――。船着き場に着くや否や、休む間もなく運搬作業が始まった。漁獲した真ガレイがひと網ごとに丸ごと入った約25㎏前後のプラスチック箱を、クレーンで次々と釣り上げ、トラックの荷台へ積み上げてゆく。すべて積み込んだ後は、漁港近くにある作業小屋へ。
最も苦労するのは、実はここから。刺し網には真ガレイのほか、宗八ガレイや砂ガレイ、ホッケ、カジカなどさまざまな魚種が同時にかかるため、“カギ”と呼ばれるフックが付いた道具を使い、刺し網を傷付けないよう丁寧に一尾ずつ手作業で網からはずしていくのだ。作業場には6~7人の“魚はずし職人”がスタンバイしており、一斉に作業が始まった。 間近に見ていると、“カギ”をシュッ!シュッ!と手早く器用に動かしながら、複雑に絡まった網をさばき、あっという間に魚を外してしまう。中央に山積みになった100箱以上のプラスチック箱を見ただけで、素人の目には気の遠くなるような作業だが、浜のお母さんたちは驚くほど元気いっぱい。「あらっ、これ見て!立派なマスもかかってるわ」と和気あいあいとおしゃべりしながらも、作業の手はひと時も止めないからすごい。第21龍幸丸の工藤正之さんによると、最盛期は水揚げ量が250箱以上になるというから、この魚はずしと仕分け作業もいっそう大仕事になるのだろう。
真ガレイは弾力があり、カレイ類の中でも味は一級品とされる。「春先の子持ちの雌は煮付けにすると最高だよ。一夜干しもうまいしね」と工藤さん。鮮度抜群のとれたては刺身にすると、繊細な甘味が楽しめ、ヒラメにも劣らずの美味だという。
ところで、夜明け前から作業を行うにはわけがある。朝、水揚げした真ガレイを「新鮮なうちに味わってほしい」と、仕分け作業後すぐに旭川や札幌のスーパーマーケットへ持ち込む産地直送のスタイルにこだわっているからだ。店頭に陳列されるパッケージには、生産者である工藤さん一家の笑顔の写真も一緒に並ぶ。
浜通信ひと・くらし
煮付けや唐揚げ、一夜干し…と、北海道の食卓では馴染み深い「真ガレイ」。北海道一円で水揚げされるが、産卵期は北へ行くほど遅く、留萌管内沿岸では3月中旬から6月中旬にかけて刺し網漁業が行われる。真ガレイ漁が終盤を迎えつつある小平町の鬼鹿漁港を訪ねてみた。