北海道遺産に登録されている打瀬舟での北海しまえび漁は、道東の野付・尾岱沼(おだいとう)だけでみられる景色。ヨットのように白い三角帆をあげた小さな船で漁をすることから“海に浮かぶ宝舟”といわれ、観光客を楽しませる。北海しまえび漁が始まる6月、尾岱沼漁港の忙しい夏がまたはじまる。
赤くない北海しまえびをみたのは初めてだった。「生で食ったことないのか?」漁師さんがくれたのは、尻尾をピチピチと動かしている緑色の北海しまえび。活きのいいエビの殻は剥きづらく、やっとの思いで口にした食感はプリプリを超えてコリコリ。初めての食感だ。北海しまえびは漁獲後すぐに鮮度が落ちてしまうので、茹で上げるのが基本。現地でしか味わえない“活き造り”は漁があるこの時期にしか体験できないのだ。
夏至を迎え、ほの明るい朝5時に34隻の舟が一斉に出港し、午前と午後のセリにあわせて港に戻ってくる。「時化ていても、風がなくてもだめ。今日のエビはいつもの半分ちょっとだな。」と漁を早めに切り上げて港に戻ってきた漁師さんは苦笑い。その日は初夏の穏やかな天候で、ほとんど風がないため、舟は帆を上げてはいなかった。
風がある日の打瀬舟は三角帆を大きくあげて、潮風に乗って海の上をスーッと滑るように進む。舟に付けたロープの先に袋状の網をかけて漁を行うのだ。網を引いている時はスクリューを使わないので、海草のアマモを傷つけることがない。資源を守る昔ながらの漁法だ。
漁師さんが教えてくれたのは、活きの良い状態で茹で上げることの大切さ。捕まえたしまえびは港に戻るギリギリまで、網にいれて海で泳がせている。セリが一日2回あるのは、水揚げから茹でるまでの時間を短くするためだ。大きな鍋にモクモクとあがる白い湯気。中からは色鮮やかな朱色に縞模様が浮かびあがる。
直売所では塩茹でされたばかりのしまえびを、その場で食べることができる。活け造りとはちがう、甘みのある味わいは“赤い宝石”と呼ばれていることを思いだした。