

日の出前の午前4時、羅臼漁港の船着き場にはすでに煌々と照明が灯り、秋鮭の水揚げ作業でにぎわっていた。知床半島の東沿岸部で行われる羅臼の定置網漁は、9月1日にスタート。本格的な冬を迎える11月末まで3か月にわたって続き、その間、漁港は秋鮭一色に――。操業漁船は33隻。夜明け前にそれぞれの漁場へ向かい、深夜から早朝にかけて帰港し、すぐさま陸揚げと仕分け作業が行われる。
ザバーッ!と豪快な水音とともに大網が吊り上げられ、大量の鮭がタンクに収まると、待ち構えていたスタッフたちが一斉に仕分け作業に取りかかる。銀毛や成熟したブナ、大きさ、オス・メス、傷モノなど計13種類にも細かく分別されるが、機敏に黙々と仕分け作業をこなすスタッフの手さばきに迷いはない。
知床半島と国後島に挟まれた根室海峡で水揚げされる羅臼の秋鮭は、がっしりと大型で脂ののりがよく、“知床ブランド”として人気が高い。羅臼漁業協同組合では、さらに付加価値を高めようと、幻の鮭と呼ばれる未成熟のシロ鮭・鮭児(けいじ)には、専用タグと通しナンバーを記した証明書を付けて出荷しているほか、平成18年からは、4㎏以上の銀毛オスにのみ“羅皇(らおう)”というブランドネームを冠し、品質のPRに取り組んできた。そんな知床ブランドの品質を支えている秘密が、実は羅臼漁港にもある。
平成19年に完成した羅臼漁港の北埠頭は、屋根付きの全天候型。陸揚げした漁獲物を直射日光や鳥などから守り、船着き場や市場など漁港内すべての施設に海洋深層水を引くことで、徹底した衛生・鮮度管理が行われているのだ。漁港内を見回すと、どこの床面にも常に海洋深層水が撒かれ、とても清潔に保たれていることに驚く。出荷を待つ鮭のタンクにとうとうと注がれている冷水も、もちろん海洋深層水だ。
さて、深夜から続いた仕分け作業が終わり、しばし穏やかな時間が流れると、今度はいよいよセリが始まる。漁船ごとに仕分けされたタンクを仲買人たちが取り囲み、その場で次々と値踏みされていく。ちなみに、取材日に水揚げされた“羅皇”はわずか5尾。年間でも2000尾ほどしか揚がらないというから、まさに知床鮭のエリートといえる。
帰り際、朝食を求めて漁港近くにある食堂の暖簾をくぐり、「なまら鮭丼」なるメニューを注文してみた。鮭節をまぶしたご飯に、羅臼産秋鮭を焼いてほぐした身と刺身、つややかなイクラがたっぷりのった鮭尽くしのどんぶりだ。程よく脂がのり、しっとりやわらかな身と濃厚なイクラのうま味が口の中で溶け合い、知床の秋の恵みをまるごと味わっている気分だ。その滋味豊かな味わいに“鮭王国”の実力を感じた。