

透明度が高い石狩湾に棲息するシャコは、時化(しけ)で海が荒れ、海底が濁ると、餌を求めて一斉に巣穴から出てくるという。シャコ刺し網漁は、そんな習性を利用するため、荒天の前に投網しておき、天候が穏やかになってから水揚げする。一般的な漁業とは異なり、時化の日が多いほど、操業日も増えるという、特殊な漁業だ。
石狩湾漁業協同組合石狩支所では、秋シャコ漁が10月15日に解禁され、11月末まで3隻の漁船が操業する。秋漁真っ只中の石狩湾新港を訪れたのは10月下旬。まだほの暗い朝6時前、漁港に降り立つと、ちょうど堤防の向こうから漁を終えた漁船が近づいてきた。停泊するやいなや、待ち構えていたトラックの荷台へ、シャコのかごが次々とクレーンに吊られて運ばれていく。荷積みを終えたトラックは、すぐに作業小屋へ。
ここから作業小屋で始まる網はずしが大仕事なのだ。刺し網ごと入ったカゴがずらりと並ぶその横に、10名ほどのスタッフが腰掛けて、網をたぐりながら、シャコに絡まった網を一本一本ほどいていく。シャコは触角や鎌のような脚、鋭いトゲのある尾扇を持つため、魚の何倍も作業が細かく、その分時間も要する。とはいえ、シャコは鮮度が落ちやすく、生きているうちにゆでないと殻が取り外しにくいため、網はずしの作業はスピードも重要。しかも、脚や尾扇が折れると価値が下がるので、丁寧さも求められる。ベテランの作業員さんたちは、にこやかにおしゃべりしながらも、片時も手を止めることはない。朝日が差し込む作業小屋には、穏やかな雰囲気の中にも“真剣勝負”の凛とした空気が漂っている。
網はずしの作業が進むと同時に始まるのが、巨大な釜を使ったゆで上げ作業。白い湯気がもうもうと立ち昇る釜の中に、オス・メスに選別したシャコをザザッ!と入れ、熱が均等に入るよう木の棒でゆっくりとかき混ぜる。甘みを引き出し、ふっくらゆで上げるには、湯の塩加減とゆで時間が決め手だ。何度も差し水をしながら、ゆで加減を見極め、10分ほどで一気に引き揚げる。これをいったん外気で冷やした後、一尾ずつ定規で計測し、大・中・小と3サイズに分別し、氷を敷き詰めた発泡スチロールに並べて、ようやく出荷だ。
「ゆでたてが一番うまいよ。ほら」。ゆで上がったばかりのシャコを、漁師さんがハサミでさばいて手渡してくれた。さっそく肉厚の身を頬張ると、ぷりっとしなやかな歯ごたえと、コクのある甘みが広がり、エビやカニと似ていながら、非なるおいしさ――。石狩湾が誇る、秋ならではのとっておきのごちそうである。