

一日で新車が買えるほどのにしんを水揚げしたという漁師さんがいる。高島地区で40年以上漁を続けているベテラン漁師の成田正夫さん。祖父の代からの漁師一家で、明治時代のにしん漁全盛期の話を聞いて育ったそうだ。昔と違うのは今の漁師さんは小さなにしんを獲らないように、各自で網目の大きさに規制をかけている。現在は二人の息子さんも4代目漁師として同じ海で働いているが、若い世代の漁師さんにとっての「にしん漁」は、獲れるだけ獲っていた時代とは違う思いがあるという。
ここ数年で群れが戻ってきたのは、自然の力だけではない。毎年続けている稚魚放流の努力があるからだと教えてくれた。石狩後志管内での水揚はこの数年で毎年約1000から3000トンと、まだその年によって変動がある。「海の資源は限られているからこそ、今からもっと厳しい漁獲規制が必要だ」と漁師さん自身が声を上げいる。若くて小さなにしんは鮮魚としては出荷できなくても、加工品としては需要があるが、買い手がいるからといって根こそぎ獲ってしまうと再び絶えてしまう。これからの時代に必要なのは、小さい群れを捕まえないように網目のサイズ規制の徹底や、産卵が終盤を迎える前にやめる漁期制限。資源を枯渇させた歴史を繰り返してはいけないと訴えている。小樽には祖父から子、孫へと受け継がれてきたにしん漁の歴史がある。さらに次の世代へ繋げるため、獲りすぎない努力をする漁師さんたちがいるのだ。
お正月に欠かせない数の子や、北海道ならではのにしん漬けなど、昔から私たちの身近な食文化として深く関わりのあるにしん。寒さが続くこの時期は脂がのり、サッと塩をふったシンプルな塩焼きが美味しいそう。新鮮な子持ちなら塩漬けにするのがおすすめだと地元の人が教えてくれた。獲れたての卵は綺麗なオレンジ色で、一晩塩につけて即席数の子の完成。ポリポリとした食感でハシが止まらない。これからも私たちがにしんを食べ続けるには、若い漁師さんの取り組みが増々重要になるのだろう。