

様似を訪れたのは、3月上旬。日高の沿岸部はもともと雪の少ない地域だが、車窓から眺める限りでは、春の到来を強く感じる。しかし、ひとたびクルマをおりると、風はやはり肌を刺すように冷たい。5分もたてば指がかじかむほどだ。今回は、日高中央漁協 様似地区の主力、真つぶ(標準和名エゾボラガイ)の漁にスポットを当てたい。
北海道では、つぶと総称されることが多い巻貝だが、その種類は多岐に渡る。通称「青つぶ」と言われるヒメエゾボラ、「灯台つぶ」と言われるオオカラフトバイ、「毛つぶ」と言われるアヤボラ・・・・・・。そのなかでも高級品として世に出回っているのが真つぶなのだ。
真つぶが獲れるのは、様似のほかに襟裳、広尾、大樹など日高山脈麓の一円。寒さの厳しい時期に旬を迎えるという。
様似では、200g以上を小、300g以上を中、400g以上を大と個体の重さによって等級を定めている。真つぶは、200gに成長するのに8年を要するという。資源量の減少を鑑みて、小の基準はかつての150gから引き上げられている。無計画に捕獲していては、いずれは枯渇してしまうのだ。
そこで、 200g以下の個体は、すべて放流されている。平成15年度までは試験的にタグを付けて放流された。調査の結果、放流から11年半を経て再度獲られたものは、110gから540gに成長。立派な大サイズになって再び陸に揚げられたのだが、図らずもつぶの生育の遅さが証明されたわけだ。
資源量が増えにくいことに加えて、味が良く高級料亭の引き合いが多くあることから、なにしろ高値がつく。この日の浜値で大サイズが1kgあたり4000円。大きいものでは800gを超えるというから、市場や飲食店を経て値段が跳ね上がることを考えなくても、その価格がわかろう。
味については、「独特なコリコリした歯応えと、甘みがある」と日高中央漁協様似支所の住岡克哉さん。漁師さんによると、やはり刺身で食べることが多く「焼くのは、ちょっともったいない」とのこと。
すでに確たる地位を築いている日高管内のつぶ。漁獲は道内の約3割を占めトップである。やがては、全国から世界にも、その名を知られることになるのかもしれない。