

噴火湾沿いにハンドルを握り森町、そして鹿部町を過ぎてさらに南下すると旧南茅部町(現函館市)に入る。この辺の海岸には数多くのブイが浮かんでいる。それは昆布の養殖施設で、その海中には最高級昆布の呼び名が高いマコンブがびっしりとひしめいている。
日付が7月1日になると同時に港(臼尻漁港)はにわかに活気づく。昆布漁(促成昆布)の解禁だ。午前3時……真っ暗な中、まるで気嵐のように霧がかかる岸壁に停められたトラックに、クレーンで港内から昆布が引き上げられる。そして次の瞬間にガニ足と呼ばれる根の部分が切られていく。それを数度繰り返して荷台がいっぱいになると作業小屋へハンドルが向けられた。作業小屋の一階は大きな乾燥機が設置されている乾燥室になっている。ここに昆布を吊るして乾燥させる。それはつまり、天日干しとは違い、よほどの時化でないかぎり雨や曇りと言った天候に左右されない漁が連日可能ということでもある。作業小屋前に運ばれた昆布は洗浄機でよごれをきれいに洗い落とされ、一本一本ていねいに吊るされて乾燥室に設置される。その数900本以上。昆布は乾燥室の高さに沖で切りそろえられているので、先端が床に着くことはなく、宙吊りの状態。約一時間半ほどで全てを吊るし終え、そして乾燥室は閉ざされ乾燥機に火が入れられた。これから11時間かけて昆布は乾燥させられる。その間、数度、乾燥室に入って昆布の状態をチェックし、くっつき合ってしまったものを剥がしたりといった丁寧な作業が繰り返される。乾燥を始めてから、漁師さんたちは再び港へ戻り、沖の養殖施設へ向かう。そして翌朝水揚げする分の昆布を港へ運び準備しておく。夕方4時、クールダウンした乾燥室には見事にパリパリに乾燥した昆布がひしめいている。これらを丁寧に外して並べ、専用のカット台で90センチの長さに切り分けたら作業小屋の二階に保管してひとまず作業が終わる。時間は午後6時半過ぎだ。この後翌日の準備をして漁師さんたちの長い1日が終わった。これをお盆過ぎ頃まで連日繰り返すため、体力が必要な大変な仕事であるが、日本全国の家庭にこの素晴らしい味を届けるために漁師さんたちは今日も昆布を吊るしている。
全国の15%を占める生産量で、数ある昆布の中で最も高級とされるこの白口浜真昆布は、こんぶの里と呼ばれる南かやべの前浜だけに育つ。それはここの海が栄養に富んでいる証でもあるが、それ以上に養殖技術を確立していった漁師さんをはじめとした漁業従事者の方々の研究と努力の結晶である。