

透き通った暖流が流れ込む石狩湾。その透明度が高い海底にガザエビが生息している。ガザエビとはシャコのことだ。道内で唯一、ガザエビ、シャコ漁が行われているのがここ石狩湾だ。小樽産のシャコは日本一大きいと言われ、しかもエビのような甘味とカニのようなコクがあり最高に美味いと大評判だ。四月下旬、待ちに待ったそのシャコ漁が解禁になる。シャコ漁は春と秋の2回の漁期に分けられている。春シャコは4月25日から6月20日。秋シャコは10月15日から12月10日まで。春シャコの特徴はメスがお腹いっぱいに抱卵していることで、ぷりっとした卵の食感と味がたまらないと、大人気だ。一方、秋シャコは成熟前なので身に栄養が行き届き、身入りも厚く、味もよりコクがあるとこれも大人気だ。
残雪が見える天狗山を背後にまだまだ寒い早朝6時すぎ、シャコ用の刺し網を積んだ船は漁場を目指した。今回お邪魔させていただいた漁師さんは昨年の2月にもご登場いただいた高島漁港は成田漁業部の成田ご兄弟。漁場に着くと、とても明るく楽しい兄、学さんが操船しつつ海況を観ながら網を入れるポイントを選定し、弟の広幸さんが網を投入していく。漁場にはシャコやタコの網がびっしりと入っているが、兄弟の息の合った操船・投入により短時間で終わらせてしまう。あとはシャコがかかってくれるのを翌朝まで待つ。シャコは普段海底の砂泥の中にUの字型の巣穴を堀り、その中で一生のほとんどの時間を過ごす。しかし、時化て海底が濁るような底荒れが起こると、巣穴から出て活発な行動をするようで、網にかかることになる。
翌朝6時、網上げに向かう。「波がないから漁は期待できないよ」と学さん。しかし、漁場に近づくにつれうねりがある。期待が持てる。広幸さんがローラーに網を掛けてゆっくりと引き上げていくと、早速、カレイも混じりながらシャコがどんどんと上がってくる。一見、大漁のように見えるが、「走りにしては悪くはないけど、良い時の10分の1」らしい。実際、ピーク時には一網に1,000尾以上かかるとのこと。次から次へとシャコがかかっている網を上げ終え、急いで番屋へ戻る。
実はシャコ漁はここからが本番だ。番屋へ着くと、すぐに網外しが始まる。シャコは鮮度が命。1尾1尾丁寧に丁寧に外していく。この作業が気が遠くなりそうなほど時間がかかる。以前、あまりにシャコがかかりすぎて外すのに翌日の昼すぎまでかかったことがあるという。鮮度重視の漁のため、それはけっして良いことではなく、現在は獲りすぎないようにしているとのこと。網から外されたシャコはオスとメスに分けられる。それにしてもシャコが大きい。がっしりとしたシャコ特有の姿形は、アップで見ると迫力すら感じられる。
同時進行で大きな釜に水がはられ、強力な火力であっという間に沸騰。いよいよメインの作業、釜茹でだ。まずはオスのシャコから。はじめに真水できれいに洗い、よごれを落とす。そしてグツグツと沸騰している釜へ一気に投入だ。ブワッと湯気が立ち上る。一瞬沸騰が収まるが、すぐにグラグラと沸き上がる。灰汁を丁寧に掬いとり、撹拌し、均一に茹で上がるようにする。先代である父の直伝にアレンジを加えた塩加減で茹で上げられたシャコは、ほんのりと桜色に染まっている。なんともきれいで、辺りには胃袋が刺激されるとても美味しそうな香りが湯気とともに充満している。続いてメスも同様に茹でられる。茹で上げられたシャコは粗熱がとれた段階で、サイズ・身入り・外観ごとに選別される。そしてさらに冷めて身がしまった状態で、サイズごとに分けられたものを再び身入りで分ける。全ての選別作業ではねられたシャコは1尾たりとも出荷しない。この厳しい数段階の選別が小樽・高島のシャコのブランド力の源となっている。
厳選されたシャコは発泡スチロールの箱にきれいに並べられて、いよいよ出荷されるわけだが、時計の針はすでに夕方の4時を過ぎていた。ここ、小樽は高島には、『量より質』に重きをおいての厳しい作業が行われていた。そしてそれが、『小樽高島産シャコ』のブランド力を高めている!
「土曜日、時化そうだわ!」学さんの目が輝いた。