

12月上旬の尾岱沼漁港。出港の6時でマイナス10℃を下回る、凍てつく寒さ。それでも宝進丸に乗り込む漁師さんは「昨日よりだいぶ暖かいよ」と気にも留めない。野付のほたて漁の漁期は12月~5月。1、2月の最低気温がマイナス20℃ともなるこの地では、当然のことなのだろう。20隻の船団は、30分ほどのところにある漁場を目指して出港した。
ここでのほたて漁は、稚貝を海に直接放流する「地撒き」によって育成したほたてを、「桁網(けたあみ)」という爪のある網を海底で引く漁法で行われる。漁場は野付半島の沖合。国後島の南端までわずか16kmという海峡になっているため潮の流れが速く、海中のプランクトンが巻き上げられ、ほたてにとって格好の餌場となる。こうして豊かな栄養で育った野付のほたてを際立たせるのは、そのサイズ。放流から4年を経て水揚げされるほたては、男性の手のひらを優に越える大きさを誇る。
漁船の上では水揚げが始まった。10分ほど海底を引いた桁網をアームで吊り上げると、「ガラガラ」という大きな音とともにほたてが甲板を埋め尽くす。そこから1時間ほどかけて桁網2つ分のほたてを空の貝や割れた貝と選別し、次の水揚げへ。これを3回繰り返して帰港する。
港に荷揚げされたほたては、カゴ90個、6tにも及ぶ。しかし、2016年夏に相次いで北海道を襲った台風の影響で、例年より大幅に漁獲は少ないという。荷揚げが終わるとすぐに仲買人が集まり、港でセリが始まる。漁協が競り落としたほたては、すぐさま加工場に運ばれ、手作業で殻を外して貝柱を瞬間冷凍。2L以上の大きなサイズを中心に出荷している。
年度ごとに漁場を定め、漁獲量に規定を設けるなど、資源を守る取り組みを早くから続けてきた野付漁協。手塩にかけられ育った濃い旨みと力強い歯ごたえの貝柱を味わっていると、「特別な名称は必要ない。『野付産』というだけで十分なブランドだ」という漁業関係者の矜持が感じられた。