

秋鮭漁が中盤に差し掛かった10月初旬。この時期には珍しく、様似の海はガス(海霧)が立ち込めていた。取材に訪れた日は2日ぶりの網揚げということもあり、漁港全体から期待と不安がうずまく様子が伝わってくる。漁協では鮭の鮮度保持に使う水氷入りのタンクの準備のため、漁船や近郊の港の報告から水揚げ量を予測する。様似漁港から一番近い定置網にいる船の連絡によると、あまり振るわない模様。刻一刻と時が流れ、今日はこれ以上の伸びが期待できないかもしれない…。そんな空気が漂う中、最後の一報で港は一気に慌ただしくなった。どうやら沖にはたくさんの鮭が帰って来ていたようだ。
漁に出ていた3隻が帰港する頃にはガスも晴れ、船倉からクレーンで引き上げられたタモの中にはキラリと光り輝く秋鮭の姿が見える。下船の息つく暇もなく、漁師さんたちが選別を始めた。タンクの中へドボーンと音を立てて滑り込んでいく鮭たち。キリリと冷やされた水氷の中で出荷の時を待つ。この日は日高中央漁協(様似・荻伏)全体で約70トンが揚がった。
それでもピークの頃に比べると、北海道の鮭漁は低調気味に推移しているという。「鮭が獲れるのは当たり前ではなく、ありがたいことなんだと感じます」と、明治時代から操業を続けてきた漁師の5代目・マルエス天幸丸の久野俊昭さんはしみじみと話す。9~11月の3カ月で1年の収入が決まる秋鮭漁は、久野さんたちにとって「生活のすべて」だ。今よりもっと鮭が獲れなかった時代もあったし、養殖や輸入物に圧されて価格の下落も経験したが、幾多の困難を乗り越え“日本の食卓”を守り続けてきた。何より自然の営みの中で育まれ、日高の海に戻ってきた鮭のうま味は「ひと味違う」という自信があるから、漁を続けられる。今年は全体的に小ぶりだが、「脂がのっていて、抜群にうまい」。漁師さんたちの笑顔が、日高の鮭のポテンシャルの高さを証明していた。