

「ホットプレートでこんがり焼くのがいいね。塩コショウ、ポン酢、生姜醤油とかさ、味付けを色々楽しむわけよ」。獲れたばかりの“はたはた”を網から外しながら、漁師の上山稔彦さんはニヤっと笑う。そうか、それなら柚子コショウもおいしそうだ…と想像が膨らみ、お腹が鳴る。鍋のイメージが強いはたはただったが、聞けば飯寿司、煮付け、一夜干し、唐揚げなど調理法はバラエティー豊かだ。
道内でも石狩沿岸、厚田の浜は、はたはたが産卵に訪れる好条件の漁場として賑わってきた。卵塊が浜に打ち上げられる風景は「寄りぶりこ」と呼ばれ、この地域の風物詩となっている。かつては網一起こしで1~2tも水揚げされたらしい。
今や、漁業と資源管理はセットである。はたはた漁もまた、漁師さんたちの並々ならぬ努力抜きには成し得ない。石狩湾漁協では海面の3分の1を禁漁区に設定し、えびこぎ網漁や沖合底引き網漁など近隣漁業者と申し合わせて漁獲数量を管理。定置網から刺網中心の漁へ移行し、一目が1寸4分(約45mm)以上の網を使って少しでも大きな魚体を獲る。孵化事業にも積極的に取り組んできた。
約2カ月あった漁期も短くなり、現在は11月中旬~12月中旬の1カ月で勝負が決まる。この時期は時化が多く、実操業日数はもっと少ない。海に出られても穏やかとは言い難い状況もあり、危険と隣り合わせの漁だ。冬の海の厳しさを考えただけで、体が縮こまりそうになる。だが「地域の人たちに愛されてきたはたはた漁で1年を締めくくりたい」との想いが、漁師さんたちの背中を押してきた。
そんな厳寒の海で漁師さんが元気いっぱいなのは、はたはたを食べているから……かもしれない。はたはたには、のどや鼻の粘膜に働き抵抗力を高めるビタミンA、抗酸化作用の期待できるビタミンEがたっぷりで、風邪がはやる季節にはもってこいだ。この冬はホットプレートを囲み、皆ではたはたを味わいたい。