

昆布漁の操業はとても早い。あたりが薄明るくなった早朝5時、鳴り響くサイレンと同時に各自の船が漁場へと勢いよく動き始める。釧路市東部漁協の漁師さんは約100名。その中から選ばれた3名が旗揚人として、毎朝の天候と風と波の状況を見極めて、操業するかどうかを検討し、最後に地域の代表者が決定を下す。昆布漁の難しいところは、天候と波、それぞれの条件を想定しなくてはいけないところだ。船が小さいため、天気が良くても波が高ければ漁に出ることは難しい。しかし、波がなくても天気が悪いと、引き揚げた昆布を天日干しで乾かすことができない。海から引き揚げる作業と干す作業の二つを組み合わせて考えなくてはいけないので、今年7月で操業できた日数は、たったの8日。かなり条件は厳しい。限られた日数でいかに昆布を獲るかは、漁師さんの腕にかかっているのだ。
昆布漁はかなりの力作業。まず、5メートルほどあるカギ竿で引っ掛けて、一部分を海から船に引き上げる。そこから数本をロープで縛って掴み上げ、海底の岩場に張り付いている昆布の根を剥がし取る。私たちが普段手に取る昆布は乾燥しているため片手でも簡単に持ち上げられるが、海の中の昆布はそれとは全く違う。約5倍以上の重量で、ずっしり重たい。自分の体重をかけて岩場に貼り付いている昆布の根を剥がすため、持ち上げる時には船が傾きそうになるほどだ。この力作業に加えて、漁に必要なのが計画性だとベテランの昆布漁師さんはいう。漠然と漁に出るのではなく、どうやったら品質の良い昆布を多く獲ることが出来るかを考えなくてはいけない。品質が悪い昆布は乾燥した時に等級が低く、価格も悪いのだ。限られた漁期の中で、効率良く作業をするため、昆布の成長を邪魔する海の雑草「藻」を除去したり、光合成をして育つ昆布のために間引きをするなど、事前準備を怠らない。少しでも品質良く育つように工夫する、育てる漁業を行っているのだ。さらに夏の漁期が始まる前には、あらかじめ岩場についた昆布を確認して、質の良い昆布がどこで育っているかを把握して、漁に挑んでいる。漁が始まれば、迷っている暇はない。時間との戦いだ。仲の良い漁師同士であっても、良い漁場についてはもちろん他言無用。腕の良い漁師さんこそ、年間のスケジュールを組み漁に挑む。昆布漁は計画性が何よりも大切なのだ。