

魚屋さんに並ぶ際は大抵切り身となっているかすべ。煮付けや唐揚げがすこぶる美味い。けれど、その姿を目にすることはなかなかない。かすべとはえいのこと。あのひし形で羽が生えているような平らな体型をしているさめの仲間だ。北海道では5~6種類のえいのことを総称でかすべと呼んでいるが、ここ増毛で漁獲されているのは『めがねかすべ』という種類だ。
連日の寒さが緩んできた2月下旬。午後5時頃に漁を終えた船が帰港した。
かすべの漁はかすべだけを狙ってというものではなく、小型底引き網を用いたえびこぎ網漁の際、甘えびを食べに来ているかすべも網に入るという仕組みである。
まだ空も明けきらない早朝4時すぎに船は港を後にする。漁場まで1時間弱、水深約240mのエリアだ。そのエリアで底引きをし甘えびを捕獲していく。網を上げるとえびはもちろん、かじか(とげかじか)やあんこう、はっかく、たら(まだら)といった深海を主な住処としている魚たちが入っている。その中に一際大きなひし形の魚影がある。かすべだ。船上では魚種ごとに分けて船倉に保存し、えびの一部は活として生簀に入れる。漁は厳しい日本海の寒風刺す中で10時間近く続けられ、船倉をいっぱいにして戻って来る。
かすべは1年中獲れるが、2月中旬から3月にかけてその量が多くなるようだ。そして身も厚く、旨味も増す。まさに今が旬。
帰港した船から活えびを初めに様々な魚種が水揚げされていき、かすべは最後に揚げられる。大きなものでは1mを越え10キロにもなる。かすべだけで1トン入るコンテナがほとんど埋まるほどの量があった。コンテナへ移される際、なんだかかすべがにこにことしているように見えるのは気のせいだろうか。よく見ると口から赤い何かが出ている。甘えびの触角だ。口を開けるとえびがぎっしり。また、はっかくの幼魚を咥えているものもいる。それも笑っているように見えるのだから愛嬌のある魚だ。そして市場へ運ばれたかすべは10枚1山単位で並べられ、その後競られて出荷される。
まるで宇宙人? いやいやどことなく微笑んでいるような表情のかすべ。漁師さん方もまた寒風の中微笑んで作業をしている姿が印象的だった。