

道東釧路町は昆布森。切り立った海食崖に囲まれた海岸線に位置している。そして前浜でありながらも比較的水深が深いのも特徴で、その水深のあるダイナミックな大自然の前浜を時鮭や鱒(さくらます)の群れが訪れるというわけだ。
朝焼けが残るゴールデンウィーク中の某日、一桁台の外気温の早朝4時過ぎ、船のエンジン音が昆布森の漁港に響きわたる。
午前4時半。準備を整えた船たちは前浜沖にまっすぐ伸びる定置網に向け、小型作業船を曳航しながら一斉に出港していく。
1海里ほど沖の定置網には、銀鱗が光り輝く時鮭や鱒がぎっしりと泳いでいる。本船から切り離された小型作業船が定置網の魚が集まる部分のブイを回収し本船に渡すと、船上のクレーンを使い網を起こしていく。ゆっくりと絞られていく網…。するとビチビチと元気な時鮭の姿があらわれた。この光景は「何度見ても、嬉しいもんだ」と漁師さんたちは言う。その寄せられた時鮭らを漁師さんたちが力を合わせて船上にあげ、急いで時鮭や大型の鱒を1尾1尾丁寧に専用のマキリなどで活〆し、水氷の魚槽に入れて鮮度をキープする。それからサイズを揃えて魚箱に並べていき、さらに1尾ずつ、自分たちの船のタグをえらぶたに打ち込む。これこそ船上活〆の証だ。作業は増えるが、船上で活〆することで無駄に暴れることもなくなり、鱗もはげず鮮度も抜群で味も落ちないのである。
それを定置網の魚が集まる部分の数だけ繰り返し、船上に魚箱が山積みになるとすぐに帰港だ。7時半から9時前くらいには戻るが、大漁の時やクラゲなどがたくさん入ってしまうと処理に時間がかかるため遅くなる。
港に着くと迅速に水揚げが始まる。岸壁で待機していたフォークリフトで魚箱に入っている時鮭を市場に運び、市場内にどんどん魚箱が積まれていく。と、同時進行的にすぐに計量され、重さごと、漁船ごとに分けられ、セリを待つことになる。この日はおよそ300尾以上の時鮭が水揚げされていた。
4月下旬から6月にかけて春の定置網漁は行われ、美味しい時鮭が家庭の食卓に並ぶことになる。