

まだ日も昇らず、手元も見えないような11月の早朝。大樹の漁港は出船の準備をする漁師さんたちの活気に溢れる。暗いうちの出漁だ。どどどどどーっというエンジンの音を響かせながら、次々に船が港を後にする。最後の船も出て静けさに覆われた港にいると、今度は沖で操業を始める船の音がこだましてくる。朝焼けを浴びる日高山脈の南端を背負い、目の前は大きく広がる大海原。この前浜がししゃもの漁場となる。魚群探知機をたよりに魚影の濃いエリアを探し、そこをタイミングよく曳けるように船上から漁師さんたちがこぎ網の袋網を勢いよく投入する。こぎ網を曳きながら船は大きく勢いよく旋回する。もたもたしていると海底に網を引っ掛けてしまうことになりかねない。もちろん漁場の海底を熟知している漁師さんたちだから、そんなトラブルは滅多にあるものではないが、つねに細心の注意を払い操業する。
網を曳き終えると海上に船を留め、船尾側に2機設置されている巻上機(ロープリール)で網を巻き上げ始める。たぐり寄せた網を右舷に引き寄せると、さらにロープをかけてボンブ(小型クレーン)で吊り上げて船に上げる。袋網には銀鱗が踊っている。網のファスナーを開いて漁獲物を船上に広げた後、再び網を投入し、その間に船上に広げられた魚を選別する。ししゃもを大小に分け、こまいやかれい、ちかにさぶろう、かじかと魚種が豊富だ。この作業を午後2時の操業終了時間まで繰り返し、帰港となる。
港内では午後1時にもなると、各漁船が接岸するポイントでおかまわりさんたちが荷揚げの準備をして、船が戻るのを待機しはじめる。船上で選別しきれなかった魚の選別作業を行うために一家総出だ。船が戻ると船上から次々に降ろされる木箱やコンテナ。中はししゃもはもちろん漁獲物でいっぱいだ。船上で選別されたししゃも以外は、岸壁にセットされた選別台の上に広げられ、各魚種、サイズで選別される。次々と広げられていく漁獲物を手際良く正確に、短時間で捌いていくおかまわりさんたち。どんどん積み上げられていくししゃもが入った木箱。その木箱を漁協の職員がフォークリフトで市場へ運び計量となる。計量されたししゃもが木箱のままどんどん積まれていく。そして迅速にトラックで加工場や冷凍庫へ運ばれていく。
ししゃもは、鮮度が落ちやすく、出荷は時間との勝負とも言える。より美味しいししゃもを口にしてほしいから、漁師さんたちはてきぱきしている。十勝の長閑な漁師町、一見時間が止まっているような空間が広がるが、その中で作業をする漁師さんたちの行動はとにかく迅速だ。「十勝のししゃもを食べてみな、そしたらわかるべ、本物のししゃものうんまさがな!」