

往年のピーク時と比較するとまだまだ漁獲は少なく、毎年の漁獲量の振れ幅は大きいが、この10年ほどで北海道近海のにしんの資源漁は確実に増えてきている。さらに、2月~4月にかけて日本海側の沿岸ではにしんの産卵行動で海が白濁する『群来(くき:産卵行動時に放精された白子で白く濁る)』もみられるようになり、明るいニュースとして取り上げらている。
3月上旬のある日、札幌中心部より日本海側を40キロほど北上した位置にある石狩市厚田区の厚田漁港を目指した。厚田地区に入り、空が白々とし始めた5時すぎ、吹雪で視界が悪い中、沖に目を向けると、点々と漁火がみえる。薄暗い中でにしんの刺し網を起こしをしている姿だ。前日に仕掛けておいた刺し網を引き上げている。1隻あたり10本までの網を刺せるが、刺す場所は過去の実績や魚群探知機に映る群れを頼りに仕掛けるそうだ。
今回お邪魔したのは厚田漁港の中井漁業部社長で第88厚福丸(こうふくまる)船長の石狩湾漁協厚田地区青年部長を務める、イケメンの中井健太さん。中井船長は深夜午前2時すぎに港を後にし、前日に仕掛けてある網を上げに向かった。そして午前6時前に帰港し、一度目の水揚げをすませ、残りの網を上げに再び沖へ向かっていった。
一方、番屋に運ばれたにしんはすぐにおかまわりさん達の手により1尾1尾丁寧に網から外されていく。気の遠くなるようなにしんの量だが「にしんは他の魚と比べて網から外しやすい」のだという。確かににしんの容姿は流線型で網の目から抜けやすそうな体型をしている。とはいえ、水揚げされた量はおおよそ2トン以上はある。すぐにはぴんとこないほどの量だ。しかし、おかまわりさん達はてきぱきと作業を進めていく。そして丁寧に外されたにしんは一箇所に集められ、次にオスとメス、さらにサイズ毎に選別されるのだが、にしんはオスメスの外観の違いはほとんどない。お腹の膨らみである程度は識別できてもそれは確実ではないため、なんと1尾1尾丁寧にお腹を軽く絞って卵か白子を確認し選別していくのだそうだ。
千尾以上を超える量を1尾1尾絞って分けていくのは、これもまた気の遠くなるような作業だが、番屋内では黙々とおかまわりさん達の作業が続けられていく。そして午前9時前頃に二度目の網上げを終えた船が戻って来て、再び水揚げされる。網にかかっているにしんがビチビチと暴れる。鮮度抜群だ。番屋内では網外し、選別と作業が続けられており、それらのにしんをさらに計量・洗浄し、規格ごとに発泡スチロールの箱に詰めていく。メスは1箱8キロ、オスは5キロに詰められるが、実際にはメス8.3キロ、オスは5.3キロほどになるようにしているそうだ。発泡が集荷場所に集められて作業は一巡する。すべてのにしんを運び終えると、次は刺し網を綺麗に整えて次の漁に備えて作業は終了となる。にしん刺し網漁は3月中旬で終了とのこと。海況を考えるとあと一度くらいかなと中井船長。まだまだ凍てつく晩冬だが、厚田の港は春告魚で活気に満ち、春はもうそこまで来ていた。